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2002年のシリーズチャンプを獲りながらも、2004年度は極度の不振に苦しみ、まさかのノーポイント。しかし、2005年の第2戦でいきなり優勝して復活! 第6戦でも2位になり、総合45ポイントを獲得しランキング7位につけた。これはAE86の最上位である。2004年の不振の原因はなんだったのか? そして、植尾スタイルを可能にするクルマづくりとは? 日本いちのハチロクドリフト仕様に迫る! |
2002年のD1を制した“ハチロクの神様”は、2004年の1年間、すっかり凡人になり下がってしまった。ミスをしているわけでもないのに、本来のキレが出ない。結果はノーポイント。周囲が「植尾は腕が落ちたのか?」と心配するほどだった。 植尾本人が不調の原因にやっと気づいたのは、第6戦の走行後。たまたま、はがれかかっていた塗装をはがしてみると、ボディ補強のために打っていたリベットがすっかり伸びてしまっていた。そうなると、穴を開けているぶん、逆にボディ剛性はガタ落ち状態。どうりでいくら足のセッティングを変えてもうまくいかないはずだ。 そこで植尾は2004年シーズンが終わると、2003年まで使っていた1号機を引っ張り出した。1号機はスポット増し溶接でボディ補強してあったので、リベットのように伸びる心配はない。2005年の開幕戦は参加をあきらめて、できた時間に1号機のボディをリフレッシュさせた。不要な部分をそぎ落とし、30キロほどの軽量化も果たした。そして第2戦、これまでの不調がウソのように、植尾は優勝で復活の狼煙をあげた。 結局、問題だったのはボディだけだった。タイヤやエンジンやサスペンションは進化していたので、1号機は2005年のD1にもじゅうぶん通用したのだ。植尾は本来のスタイルを完全に取り戻し、2005年シーズンはシードの座を守ることができた。とくに第7戦の単走3本とも100点という走りは圧巻だった。 |
それにしても本調子のときの植尾の走りには圧倒される。限界を超えたように見える深い角度、そしてその角度をつけるまでの驚異的なスピード、そしてつねにアクセル踏みっぱなしでコーナーをクリアしていく…。 スピンしそうでしない深い角度の秘密は、ずばりフロントタイヤにあった。植尾AE86はデビュー以来ずっと14インチの185幅以下だ。これはグリップさせないためのチョイスなんだと言う。ドリフト時にアクセルを入れるとフロントが流れるセッティングなのだ。だから、カウンターの量よりドリフトの角度が上まわってもスピンしないというわけ。これ以上タイヤを太くするとあの角度にならないらしい。 そして、その深い角度を一気につける驚異のクイックさにも秘密がありそうだ。しかしこれは「あれはクルマじゃなくて運転なんスよ」と植尾。振りっ返すときに“荷重のタメ”をうまく使うのがコツだそうだ。 反対側のサスペンションに荷重を乗せておいて、その反発力を使って、「ポン」と振り返す。このときに、サスペンションを「ギューッ」っとつぶしすぎないこと。余裕があるうちにアクセルを抜くのだ。ちなみに植尾は、自分のハチロクじゃなくても、あのカクカクした振りっ返しができるという。 そして、全開のまま曲がっていく踏みっぱコーナリングについては「信じられるクルマを作ってるからじゃないですか」とあっさり言われてしまった。 植尾だって、減速するところではちゃんと減速しないと曲がっていけない。でも、止めたいときに瞬時に止められる自信があれば、ほかの人よりも長くアクセルを踏んでいられる。それがつねに全開で曲がっていっているような印象を与えるのだ。 |
植尾ハチロクの走りは、彼の驚異のドライビングテクニックがあってこそなし得るスタイルということがわかったと思う。しかし、それを100%出し切るためには、やはりマシンメイクもそれなりに必要だ。 まずはボディ剛性。「ボディが硬くないと、タイヤに思いどおりの面圧がかからないし、ダンパーのセッティングも決まらない」と言う。ただ、ウェット時に扱いにくくならないように、やみくもにガチガチにはしていない。 そしてエンジン。基本的な特性はフラットトルクだ。'04年は1万3000回転までまわすこともあったが、そこまでトルクがついてこないので、現在は早めのシフトアップで車速の伸び重視を心がけている。シフトアップは9000回転くらい。レブリミッターは設定していないので、エンジン音でアピールしたいときには、もう少し上までまわすこともある。 そして足。スプリングの選択で重視しているのは、とにかく跳ねないこと。そのためバネレートは柔らかめだ。ただし、あまり柔らかくすると、動きがしっとりしすぎて派手さが出ないので、適度な硬さのものを使っている。 ダンパーはまだセッティング途上だ。とにかく「止まる」ことを重視してしている。「しっとりしてるけど、ガッチリしてる」特性をめざして現在も試行錯誤している。 それをふまえて2006年は3台目となるニューマシンを投入する気だ。車種はもちろんハチロク。現行マシンより50kgくらいは軽くする予定。「エンジンの搭載位置を下げたり、ガソリンタンクを換えたりと、いろいろ試してみたいことはありますね。第2戦までには、いや、第1戦から投入できるかも…」と植尾。 '06年は“植尾スタイル”がさらに進化することだろう。 |
○ENGINE:TOMEI PISTON/CRANKSHAFT/CAMSHAFT JUN CONROD AE101THROTTLE DG-5 INTAKE MANIFOLD MATSUMOTO ENGINE HIGH-PORT HEAD ○CONTROL:TOMEI REYTEC ○DRIVE-TRAIN:MUJIRUSHI CLUTCH ○SUSPENSION:DG-5 PROTOTYPE ○BRAKE:NORMAL ○WHEEL:RAYS TE37 GRAVEL(FR:6.5J-14off±0) ○TIRE:RE-01R(FR:185/60-14) ○AERO:CAR BOUTIQUE CLUB MERCURY YAHOO!AUCTION |
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エンジンは2005年から“松本エンジン”で組んでいる。ヘッドは独自のハイポートだ。レスポンス重視したこのポートは、本来は作用角が小さいカムと相性がいいという。しかし2005年は、高回転でのパワーを重視して作用角の大きいカムを入れていたので、アンバランスな部分もあった。2006年はそのあたりのマッチングをどう取るかが課題だ。 | スロットルボディはAE101純正の4連型。ハイポートヘッドにしたことで吸気ポートの位置が変わったので、DG‐5に製作してもらったインマニを使って位置を1cmくらい上げている。 | |||
D1では2、3基のミッションの予備を用意。それぞれノーマル、3速クロス、5速クロスと、ギヤ比がちがう。パソコンの表計算ソフトで作ったギヤ比の組み合わせのグラフをつねに携帯していて、必要に応じてミッションとファイナルを交換する。もっとも、最近はノーマルミッションを使うことがほとんどだという。 | ||||
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テンションロッドはメンバーごとクスコ製。車高調はDG-5の試作品だ。セッティングが決まれば商品化もされるかも。ブレーキはローター&キャリパーもパッドもノーマル。あまり減速しないからこれでじゅうぶんなのだという。ちなみにマスターバッグも取りはずしている。 | ファイナルギヤは6種類用意してあって、必要に応じて交換する。コースに応じてLSDのイニシャルも調整するという。リヤサスアームは現在フルピロだが、今後は片ピロか強化ブッシュに変更する予定もある。そのほうがトラクションがかかりやすいのと、ミスをしたときにごまかしが効きそうだからだという。 | |||
リヤサスは、車高の調整やバネレートの変更をしやすくするため、コイルオーバー式の車高調に変更。ナックルの下側のブラケットは、コントロールアームの取りつけ位置を換え、よりトラクションがかかるように加工している。リヤサスの上下のアームの長さでホーシングがストロークしたときの動きかたを調整でき、ここもセッティングとして利用可能だ。 | ||||
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メインのメーターパネルは作り直され、タコメーター、油圧、油温、水温、燃圧計が収められている。P‐LAPをつけると1周のタイムがわかるので、ドリフトの練習でも、走行時間枠の中で何周走れるか把握できて便利だそうだ。ハンドルコラムのバンダナは、縁起をかついで2001年から巻いている。 | スポット増しやロールケージの取り付けは、すべて自分の手で施している。スポット増しは過去の経験を生かして、とくにメインフレーム部分に重点的に入っている。また、ウエット路面の場合は剛性を調整することもあるので、ロールケージはあえてボルト止めだ。助手席の後ろの隔壁の中には、バッテリーとコレクタータンクが収められている。 | |||
参戦中はカーブティッククラブのフルエアロを装着していたが、リヤバンパーだけは最近壊してしまったので、撮影時はノーマルバンパーを装着。フロントフェンダーはネットオークションで購入したノーブランド。ネット通販好きで、安くて使えるものをいつも探しているという。リヤフェンダーは鈑金でわずかにワイド化されているのみだ。トレッドもセッティングの重要な要素なので、スペーサーの量で調整している。 |
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