HKSの過給器チューンといえばターボというイメージが強いが、じつは1980年代半ば、スーパーチャージャーを扱っていた過去がある。しかし、当時は効率の良さでターボ開発に重点を置いていたのだ。そして、あれから20年が経過。パワーだけではなく環境性能も求められる時代となり、また技術的に効率の良いスーパーチャージャーを開発できるようになったことで、HKSが本気になった。そんなHKS入魂のGTスーパーチャージャーシステムを、レーシングドライバー木下隆之が斬る!
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1960年5月5日生まれ。東京都出身。学生時代からモータースポーツの世界へと積極的に挑戦し続け、ダートラ、ジムカーナ、F3、GT選手権、ニュル24時間など、ジャンルを問わずに多くのレースに参戦。多数の優勝を飾り、現在も参戦しているスーパー耐久では、最多勝記録を更新中だ。また、日本カーオブザイヤー選考委員を務めたり、「Key’s」ブランドのプロデュース、作家としての活動など、多方面で活躍。
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実はあまり期待していなかった。これまでスーパーチャージャーで満足したことはあまりなく、今回もどうせ‥‥という負の思いを抱いていたのも事実なのだ。
だがその予測は、このZ33に乗ることで、いい意味で完璧に裏切られた。HKSが開発したGTスーパーチャージャーシステムは、その過給器ならではの特徴をさらに磨き上げながら、欠点を見事につぶしてくれていたからだ。 まず驚きは、そのレスポンスである。低速トルクは力強く反応も驚くほど鋭い。もともとクイックで軽やかな動きのフェアレディZのスロットルバイワイヤーとの相乗効果で、とにもかくにも、最初の一歩の動き出しが俊敏なのだ。であるから、ATとのマッチングがすこぶるいい。街中での走りやすさだけではなく、ワインディングで忙しくスロットルを開け閉めしても、イライラさせられることがない。いやむしろ、そのレスポンスを楽しみたくなるほどだ。 そして、高回転までスパンとまわることにも驚かされた。6800rpmでリミッターに叩かれるまで、回転計の針がストレスなく駆け上がるのだ。スーパーチャージャーは高回転域がダメ! だなんて、もう口にはできなくなった。 また、スーパーチャージャー特有の不快な金属質な音や、吸気音が抑えられていることにも好感がもてた。スーパーチャージャーには、ベアリングが擦れる音が付きまとう。それが快感をスポイルしてきた。だがこれには、その悪癖がないのだ。低回転域では滑らかであり、中回転域でトルクが爆発している時にわずかに金属音が加わる程度だし、むしろそれが迫力を加えているような気がした。デジタルな加速だけではなく、フィーリングも心地よいのである。 そもそも、質感の高さが好感触。完成度が高いのだ。いまさら、バキバキいわせて走る気にもなれないし‥‥、という大人のユーザーでも喜べるだろう。 |
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![]() スーパーチャージャーのコンプレッサーには、ルーツ式やスクリュー式など様々なものがあるが、HKSがチョイスしたのは遠心式。これは、ターボのコンプレッサーのようなものを使ったタイプで、軽量コンパクト、高風量、高過給圧にできるのが特徴だ。
また、GTスーパーチャージャーシステム最大のウリとなるのが、それに組み合わされる増速装置。これまでの遠心式コンプレッサーでは、2軸またはプラネタリータイプのギヤ式が主流だったが、HKSでは歯車を持たない、表面が平らなローラーを使ったトラクションドライブを採用。これにより、ギヤ式以上に出力軸の回転数を高めること、コンプレッサーサイズの小型化、静粛性の向上を実現したほか、さらにトルク感応型とすることで低負荷領域での高効率化を可能とし、スーパーチャージャーの弱点でもある常用回転域での燃費向上も達成。この遠心式+トルク感応型トラクションドライブの組み合わせこそ、20年ぶりのスーパーチャージャー開発に、HKSを本気にさせるキッカケとなった部分である。 そして、取り付けに必要となるパーツをすべてそろえ、加工なしでの装着を可能にしたのがコンプリートキット。取り付け後に1ヵ月点検を受けることで、1年2万kmの保証(スーパーチャージャー本体)が付くのもポイントだ。 |
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