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深夜の狂宴 | 静寂を破って | 好敵手 | 華麗なる舞い | ストリートドラッガー | 宴のあと
本州最後のゼロヨンパラダイス
深夜のストリートゼロヨンを密着取材
かつて週末ごとに大きな盛り上がりを見せていたストリートゼロヨンの会場のなかには車線規制や波状舗装といった締め出し策によって閉鎖に追いこまれたところもすくなくはない。さいわいにしてなんとか走れる状況にあるゼロヨンスポットもけっきょくはオマワリさんとのイタチゴッコ…というのが現状だ。ところが、そういった心配になやまされることなくストリートゼロヨンをぞんぶんに楽しめる場所がまだあったのだ!
深夜の狂宴。
〜白煙がいざなうフルスロットルの世界〜
直線が延々つづく夢のようなステージ
土曜日の午後9時。先導役をかって出てくれた爆音をかなでるGT-Rのテールランプを追って、もう何km走っただろうか?あたりには民家らしきものがまったく見あたらず、街灯すらひとつもない。そういえばしばらくのあいだ信号も見てないし、対向車ともすれちがっていないことに気づく。ヘッドライトの明かりだけがたよりの暗闇を、かなりのペースでとばしつづけること15分。道がとぎれるその場所にひっそりと、しかしながら異様なまでの存在感を放ちながらたたずむチューニングカーの一群を発見した。そこがスタートライン、そして走ってきた道こそがストリートゼロヨンの舞台そのものだったのだ! コースは片側1車線で、対向車線を右レーンとして使用。ドラッグ専用コースでいうところのリターンロードは存在しないため、出て行った2台がUターンして戻ってくるまで、つぎの2台は待機することになる。また、スタートラインの手前には専用エリアがもうけられ、水をまいての本格的なバーンナウトが可能。かつてはフィニッシュラインもしっかり引いていたそうだけど、いまは「4速吹けきりまで」というのが暗黙のルールになっている。冬は雪によって完全に閉ざされてしまうこのコースは、4月末から11月末までが走りの季節。毎週土曜日には、地元のゼロヨンフリークはもちろん、近県からの遠征組もふくめてコンスタントに30〜40台が集まるという。ちなみにOPT取材班が乗りこんだのは今年のシーズンイン当日。ざっと50台が集まったこのゼロヨンスポットでは、明け方ちかくまで熱い勝負がくり広げられたのだ。
スカイラインGTS-t[HCR32]
RB25DET改2.6L/T78
578ps(ブースト圧1.4kg/cm²)
180SX[RPS13]
SR20DET改2.2L/T78-33D
580ps(ブースト圧1.6kg/cm²)
スープラ[JZA70]
1JZ-GTE改/TO4Rカットバック
490ps(ブースト圧1.6kg/cm²)
スカイラインGT-R[BNR32]
RB26DETT改/GT2540X2
730ps(ブースト圧1.6kg/cm²)
マーク [JZX100]
1JZ-GTE改/GT3037
450ps(ブースト圧1.2kg/cm²)
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静寂を破って。
〜暗闇を切り裂くヘッドライトの閃光〜
軽からGT-Rまで幅広い車種が集う
このエリアでは、いちじGT-Rが最大勢力だったこともあるそうだけど、この日集まったチューンドカーを見るかぎり、車種的なかたよりはほとんどナシ。しいていえば、ロータリー勢がややすくなかったかなという印象を持ったくらいだ。排気量別としても、目の前を弾丸のようにすっとんでいくヴィヴィオやスターレットターボ、マーチといった軽自動車〜コンパクトカーから、2Lクラスのリヤ駆動ということで相変わらず人気が高いシルビア/180SX、MR2などが勢ぞろい。さらにオーバー2LクラスのFR車も多く、ハデにバーンナウトを行うスカイラインやスープラ、ソアラも見られた。また、いっときほどの台数はいないにしても、もちろんGT-Rだって健在だ。ちなみに地元ショップのハナシによると、ここ数年は2Lクラスの4WDマシン、つまりはランエボやインプレッサがふえてきているという。ゼロヨンにかぎっていえば、GT-Rなみのパフォーマンスを比較的カンタンに引き出せるから…どうやらそのあたりに人気のヒミツがあるようだ。いっぽうストリートゼロヨンらしく、各車のチューニング内容はじつにさまざま。ほとんどノーマルといってもイイ仕様をはじめ、ブーストアップからタービン交換仕様、はてはHKSやアムクレイド主催の大会で上位に食いこむフルチューンドまでがならぶ。車種もチューニングメニューも幅広いけど、多くのクルマで唯一共通していたのがヘッドライトのHID化。このステージでたよりになるのは、みずからが放つこうこうとした光だけなのだ。
スカイライン[ECR33](左)
RB25DET/TO4E
400ps(ブースト圧1.5kg/cm²)
スカイライン[ECR33](左)
RB25DET/T67-25G
520.9ps(ブースト圧1.32kg/cm²)
セリカGT-FOUR[ST205](左)
3S-GTE/ブーストアップ
最大馬力不明(ブースト圧不明)
ポルシェ911[930](右)
M64 3.6Lエンジン換装/250ps
180SX[RPS13](右)
SR20DET改2.2L/T78-33D
580ps(ブースト圧1.6kg/cm²)
ミラージュ[CM5A](右)
4G93/ブーストアップ
230ps(ブースト圧1.0kg/cm²)
ソアラ[JZZ30](左)
1JZ-GTE/ブーストアップ
280ps(ブースト圧0.9kg/cm²)
MR2[SW20](左)
3S-GTE/ブーストアップ
300ps(ブースト圧1.3kg/cm²)
シルビア[PS13](左)
SR20DET
210ps(ブースト圧0.7kg/cm²)
ソアラ[JZZ30](右)
1JZ-GTE/ブーストアップ
300ps(ブースト圧1.0kg/cm²)
スープラ[JZA80](右)
2JZ-GTE/ブーストアップ+NOS×2
550ps(ブースト圧1.2kg/cm²)
180SX[RPS13](右)
SR20DET/TD06-20G
400ps(ブースト圧1.25kg/cm²)
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好敵手。〜ともに楽しむ仲間、競いあうライバル〜
おなじショップに出入りする仲間やチームの一員として、ストリートゼロヨンをともに楽しむ。ただし、スタートラインにならんだその瞬間、おたがいはライバルになる。そんな関係で速さを競いあっている6台のマシンメイキングに迫ってみよう。
Little Monster
県内はもとより、東北エリアのゼロヨンで勢いのあるショップといえばかならず名前があがるリトルモンスター。そこで製作されたのがこの3台だ。ランエボAは「冬はドリフト、そのほかはゼロヨンがメインのオールマイティな仕様です」とオーナーの悟サン。街乗りでも不便じゃないようにというリクエストにこたえ、4G63には大きめのGT3240を組みながら、ボアアップやハイカム、バルタイ調整によって低回転からトルクフルな仕様としている。マフラーもメインパイプを80φとしてワンオフ製作されているところがポイントだ。悟サンに影響されてゼロヨンをはじめたという陽子サンのインプレッサもエンジンを中心にしっかりとチューニング。EJ20をボアアップしてT67を組み合わせた500psというマシンだ。ミッションが弱いとされるGC8だけど、オイルを規定量より0.5lほど多めに入れることで2年間ゼロヨンに使ってもノントラブル。今後はギヤ比やホイール&タイヤサイズ変更でタイムアップをねらっている。もう1台のJZX100は、見ためこそGT-Rリップを流用しただけのシンプルな仕上がりだけど、中身のほうはかなりのモノ。オーナーの桜井サンは「ライトチューンなので当面の目標タイムは12秒フラットです」というけど、GT3037とバルコンにより、いまの仕様でも450psを発揮する。まだまだセッティングで煮詰める余地があるみたいだけど、ゼロヨン後半における高回転域での伸びはピカイチらしい。車種もエンジンもちがうこの3台は、毎週末のストリートゼロヨンで切磋琢磨してウデをあげているところだ。
MARK2 TOURER V[JZX100]
HKSのバルコン(IN264度/EX272度)とGT3037の組み合わせは、全域でパワー&トルクアップが図れるメニュー。これでブースト圧1.2kg/cm時に450psを発生する。フロントパイプからマフラーまで、パイプ径を85φで統一した岡田オリジナルの排気系が効果絶大とのこと。
IMPREZA WRX STi[GC8]
JUNの92φピストンやカムシャフトを装着した2061ccのボアアップ仕様。ブーストアップ仕様からステップアップしたばかりで、まだセッティングの途中だけど、タービンはT67の8cmに1.8kg/cmというブースト圧をかける。ランエボとは対照的にかなりドッカン気味のセッティングだ。
LANCER EVOLUTION[CD9A]
エンジンには東名86.5φピストンやH断面コンロッド、HKSカムシャフト(IN/EX272度)が組まれるほか、ポートとインマニを拡大&研磨加工。そこにGT3240をセットした480ps仕様だ。セッティングはピークパワーねらいでなく、低中速トルクの向上に重点がおかれている。

JUNKY PANIC  
ショップとしてはドリフト仕様でもサーキット仕様でもお手のモノ。ただ、代表の三ツ倉サンが根っからのゼロヨン好きってこともあり、それがショップのイメージになっているのがジャンキーパニックだ。まずBNR32は、昨年のアムクレイド全国大会で4位入賞という実績を持つ実力派マシン。エンジン本体はカムとヘッドガスケットだけを交換してT518Zをポンづけした比較的ライトな仕様だ。ブースト圧は1.5kg/cm²で580ps。GT-Rとしては決しておどろくほどのパワーではないけど、駆動系や足まわりをふくめたトータルバランスの高さを武器に、実質的な速さを手に入れている。いっぽう、おなじRB系でもRB25DETベースで500psオーバーを達成したのがECR33。これもGT-R同様、エンジン本体で手が加えられたのはカムとヘッドガスケットのみだ。ただ、タービンにはT67が組み合わされ、Vプロを使ったエアフロレス化も図られるなど、チューニングレベルはかなり高い。じっさいのところ、ポンづけタービン仕様のGT-Rにも先行するほどのパフォーマンスを見せてくれるんだからあなどれない。そんな2台にくらべると、ブーストアップ仕様290psのステージアはずいぶんおとなしく見えてしまうかもしれない。が、足まわりにはテイン車高調が組まれ、ブレーキは前後ともZ32キャリパー&ローターが移植されるなどヤル気は満点だ。でも、ホントにおどろくべきはエンジン耐久性の高さかも。すでに走行21万kmなのに、これまでいちどもオーバーホールしたことがないっていうんだからね。
STAGEA 25RS[WGNC34]
ブーストアップの前置きインタークーラー仕様。燃調と点火時期はオリジナルROMでセッティングして、ブースト圧はトラストプロフェックBで0.85kg/cmに設定される。ちなみにこのステージアはAT車。ATF温度の上昇をおさえてミッションを保護するためにATFクーラーも装着されている。
SKYLINE GTS25t[ECR33]
「低速域でもあつかいやすくストリートを快適に走れる」それがオーナー中嶋サンからのリクエスト。エンジン本体はアペックスカムシャフト(IN/EX270度 8.9mmリフト)と1.2mmヘッドガスケットが組まれ、T67-25G(10cm)をセット。ブースト圧1.3kg/cmで520psを発揮する。
SKYLINE GT-R[BNR32]
カムシャフトをHKSステップ1(IN/EX264度 8.7mmリフト)に、ヘッドガスケットをトラスト1.2mmにそれぞれ交換。2基がけされるタービンはT517Z-8cm²で、純正エキマニを介して文字どおりポンづけされる。制御系ではエアフロが残され、純正コンピューターのROM書き替えでセッティング。

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華麗なる舞い。
〜会場を盛りあげるパフォーマンス系スクーター〜
その独特なアクションにだれもがクギづけになる
まるでダンスを踊っているかのように、流れるような動きでスタートまでのカウントダウンを開始。東北エリアの某ストリートゼロヨン会場で、名物スターターとしてよく知られているのがSサンだ。この日は、取材したスポットをホームコースとしているチームとふだんからおたがいに交流してることもあって、遠征してきてくれたのだ。その独特なアクションは、彼自身がドライバーとして通いつめたスポットのスターターに代々受けつがれてきたモノ。それを基本としてストリートゼロヨンに華をそえるべく、じぶんなりのアレンジをくわえているのだ。「スターターは、ただドライバーにスタートの合図をするだけでなく“魅せること”が大切」と彼はいう。はじめてのひとにとってはなんともタイミングをとりにくいカウントダウンも、地元のゼロヨンスポットでは、もはやなくてはならないものになっている。そんなパフォーマンス系スターターとしての活動の延長として、彼はスターターだけのチームを結成。地元ではストリートゼロヨンの運営を行っている。それは、彼がドライバーとして走っていたころにくらべてモラルやマナーがいちじるしく低下した状況を目にして、ストリートゼロヨンの行く末に大きな不安をかんじたから。「走りのスポットはじぶんたちの手で守っていかなければならない」という使命感が彼を動かしたのだ。地元のゼロヨンスポットでは進行の仕切りはもちろんのこと、駐車場の確保やさまざまなトラブルの解決、警察がきたときの誘導にいたるまで、すべてが彼の手にゆだねられている。それだけに、どうしてもスケジュールがあわなくて会場にアシを運べないときなどは「今日は来ないんですか?」という電話がかかってくるらしい。そんなエピソードからも、彼の存在感の大きさがわかるってものだ。
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ストリートドラッガー。
〜400mにかける情熱〜  
雪どけとともに遅い春がおとずれたこのエリアでは、ストリートスポットもやっと活気を帯びてきた。冬のあいだにたまったフラストレーションをはき出そうと、この日はギャラリーをふくめ60人以上が集結。代表的なショップ&チーム別に紹介するゾ。
Little Monster
ゼロヨンスポットのほどちかくにショップがあり、会場全体の仕切り役もつとめるのがリトルモンスター代表の佐藤サン(写真左下)。GT-Rや180SX、ランエボやインプなどの定番マシンのほか、以前「Daiのチューンドカー一本勝負」で紹介したパルサーGTi-Rでみずからも毎週のように通っているそうだ。
outlaw
見ためにはスポコン仕様だけど、中身は気合の入ったドラッグ仕様というクルマが目立っていたこのチーム。なんでもバイナルグラフィックとネオン管は必需品だそうで「ストリートは絶対的な速さよりも目立ってナンボでしょ」とリーダーの柴田サン。
JUNKY PANIC
リトルモンスターの面々とも、この場所に集まっていることが多いショップ。最近はドリフトのお客さんがふえたそうだけど、代表の三ツ倉サンは根っからのゼロヨン好きということもあって、フラッと走りにくることがよくあるみたいだ。
TOPS
D1選手の堀野サンが代表をつとめるショップ。ふだんは峠でドリフトしていることが多いけど、堀野サンとリトルモンスターの佐藤サンはむかしからの仲で、この会場に遠征することもあるんだそうだ。ドリフトではFC3Sに乗る堀野サンはポルシェで登場。Z33のヘッドライトをDIYで移植した180SXなども異彩を放っていた。
POWER&SPORTS ism
仙台ハイランドをホームコースとし、アムクレイドなどの大会常連が多いショップ。県内では数少ないゼロヨンチューンをメインとしたショップで、このステージに走りにくることも多い。取材当日はエボVに乗った田村サンがストリートゼロヨンに初デビュー!
県南の仲間たち
れっきとしたチーム名があるワケじゃなく、県の南部エリアに住んでいる仲間たちの集まり。このゼロヨンスポットまではちょっと距離があるとのことで遠征組が多かった。GT-Rなどの定番マシン以外にも、ソアラやMR2、VFR400(バイク)などで精力的に走っていたのが印象的だ。
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宴のあと。〜夜明け、ふたたび静寂が訪れる〜
日曜日、空が明らみはじめた午前4時半。ほんの数時間前までくり広げられていたお祭りさわぎがまるで夢だったかのようにあたりは静まりかえる。ここがストリートゼロヨンの舞台であったことを物語るのはアスファルトにきざまれた無数の黒いツメ跡だけだ。
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